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東京高等裁判所 昭和45年(ツ)12号 判決 1970年10月29日

上告人(原告・控訴人)

小池太市

被上告人(被告・被控訴人)

成田五郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について。

論旨は、被上告人は上告人との別件訴訟において相殺の抗弁をなし、これが認容されて該判決は確定したのであるが、その相殺に供された自動債権は被上告人の訴外鈴木三郎に対する金六〇万円の債権に対し訴外荒川四郎が連帯保証をしたことによるものというのであるが、該債権は被上告人が右荒川に対して提起した右連帯保証債務の請求訴訟において、被上告人が証人鈴木三郎を教唆して偽証をさせたことによつて同人が勝訴判決を獲得したものであるから虚構の債権であるところ、被上告人は上告人の権利を害する目的をもつてこの虚構の債権をもつて相殺の抗弁をし、不法に債務の支払いを免れる旨の判決を詐取したものであるから、該判決の既判力にも拘らず被上告人は不法行為の責任を免れない、というにある。

およそ判決が確定した場合その既判力によつて右判決の対象となつた請求権および相殺に供せられた債権の存在が確定することは多言を要しない。しかしながら、判決が確定した場合であつても、その判決の成立過程において、訴訟当事者が相手方の権利を害する意図のもとに作為または不作為によつて相手方が訴訟行為に関与することを妨げ、あるいは虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔する等の不正行為を行ない、その結果本来ありうべからざる内容確定判決を取得した場合においては、右判決が確定したからといつて、そのような当事者の不正が直ちに問責しえなくなるいわれなく、これによつて損害を被つた相手方は右不法行為による損害の賠償を請求することを妨げられないと解すべきである(最高裁判所昭和四四年七月八日判決、民集二三巻八号一四〇七頁参照)。もつとも、虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔した場合に不法行為による損害の賠償を請求しうるためには、相手方の裁判所を欺罔する不法行為が刑事上詐欺罪等の有罪判決が確定するなど明白に公序良俗に違反する訴訟行為による不法行為の成立が認められる場合に限られると解するのが相当であつて、事実審において攻撃防禦を尽くす機会を与えられながら遂に偽証を打ち崩すことができず敗訴し、新訴において単に相手方の偽証を攻撃するに過ぎないようなものは含まれないというべきである。けだし、これを認めるならば、際限なく紛争のむし返えしを許すことになり、実質的に判決の既判力を無視し、再審制度を無意義とする弊を避止することができないからである。

本件について上告人の論旨をみるに、前記のとおり、上告人は被上告人の偽証教唆等による判決の詐取を主張するに過ぎず、これ以上にこれらにつき刑事上有罪判決が確定しているなど明白に公序良俗に違反する確定の事実の主張は見当らない。してみれば上告人の本訴請求は判決の既判力に抵触し許れさないところである。それゆえ、上告人の請求を判決の既判力に抵触することを理由に排斥した原審の判断は結局において正当であつて論旨は理由がない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。

よつて、民事訴訟法第四〇一条、第九五条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。(小川善吉 岡松行雄 中平健吉)

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